たとえば今トイレにいて、目の前に蓋のしまった便器があるとします。
便器ってのは、たいていの場合、勢いよく蓋がはね上がってるもの。
で、お次にこいつをどうしてやるか、そいつが問題です。
そのまま水洗レバーをがちゃこんと押すか、
はたまたぱかぁっと中を覗いてみるか、
さあ、どうする?
ぼくの仕事は、テレビ番組の企画や構成。
おもしろそうな話を考えて番組に仕立てる、絵に描いたモチを現実にする仕事と言えばなんだか素敵な感じですが、とどのつまりは女の人の代わりに番組のタネを売って歩く女衒みたいな役どころです。
ハッタリと開き直りを臨機応変に使い分け、生きてきたこんなぼくですが、
何を間違ったかたまさか妙齢のご婦人から「企画ってどうやって思いつくのぉ?」なんてシナつきで聞かれることがあったりします。
で、件の命題になるわけです。
実は、企画のタネってどこにでも転がっています。向かいのホーム、路地裏の窓、新聞の隅、明け方の桜木町でも。ただそこでメシのタネにまでするには一種の蛮勇、つまり「閉じている便器の蓋を開ける勇気」が必要なのですね。一見「おもしろいネタ」は誰にでもわかります。でもほんとにおもしろいのはそこじゃない。「この便器の中に何が隠されているのかな?」などと、あれこれ想像する視点こそがおもしろい。そんな人それぞれの「モノの見方」だけがべっぴんのおねえさんの心に響くステキな企画になるんです。
だからぼくはいつでも心をときめかせながら便器の蓋を開くのです。
たとえ、そこに恐ろしいものがとぐろを巻いて待ち構えていたとしても。